その女がその細く小さな白い指で、僕の髪を梳いている。
恭弥さんの髪、サラサラして気持ちいいです。
ゆっくり遊ばせる指、夢見がちに言う君に、僕も夢見がちに、・・・そう、と言う。

黒いソファの上で僕は頭をハルの膝に乗せて、しばしの春の午後の惰眠をむさぼっている。
細く目を開けると、どこのソメイヨシノだろうか、花弁が風にあおられて青空にひらりひらり舞っている。
花びらが・・・、と僕が言えば、・・・雲まで届きそうですね、と彼女が言う。

風がやわらかに窓から入ってきて、君の黒髪がサラサラおとをたてて揺れる。

ああ、なんて気持ちよいのだろう。

春のたゆたうゆったりとした空気と。
季節と同じ名前の彼女の膝も。
彼女が微笑みながら、僕の髪を梳くのも。

か細い手首。
きれいな鎖骨に、繋がる胸元。
ほっそりした首。
小さな小さな白い顔。

光に透き通るやわらかい君は、僕と違う人種だと思い知らされる。
手を伸ばして、君の頬に触れて、温かくて、ちょっとホッとした。

「はひ？」首を小鳥のように傾げる君の頭を掴んで、唇を近付ける。
軽く啄むようなキスをしてアーモンド色の瞳をじっと見つめたら、恥ずかしそうにうつむく彼女。

足りない。足らない。ねぇ、ちょうだい、もっと欲しい。君。
僕の、僕だけのハル。

もう一度、ハルの頭を掴んで深く自分の唇に合わせる。
ぴったりと合わせてゆっくりと深く深くハルの舌を絡めて貪れば、んぅぅ・・・と甘い声がもれた。

ゾクリ、として、もっともっとハルの声が聞きたくなって、僕は彼女の身体を僕の支配下に滑りこませる。
そのまま彼女の首筋に噛み付いた。

「はひっ、きょ、恭弥さんっ、だめ、だめですよっ、お昼間からハレンチですー！」
ハルがいつものように足をバタつかせたり、彼女の小さな手で僕の胸を押し返そうとして抵抗する。
以前、同じようにソファに彼女を沈ませて胸元のリボンをほどこうとして、女子の力とは思えないパワーでソファから突き飛ばされたことがあったから、今日は慎重に彼女の手首を掴み、必死の抵抗を抑えようとしたのだけど。

「は、はひっ！おちっ・・・！」
「・・・・・・・・・・・っ！」

ああ、くそ、忘れていた。
油断していたとはいえ、以前、彼女から突き落とされたときも、このソファでは彼女を組み敷くには幅が足りなさ過ぎて、草壁に新しいソファを新調するように命令していたのだった。

彼女が僕の下敷きにならないように、どうにか上手い具合に落ちると、大きな瞳で上から僕の顔をのぞきこんでいる。
この体勢も悪く、ない。

「ヒバリさんっ！ごめんなさい！ごめんなさい！大丈夫ですか？ヒバリさんっ！
は、はひー！！！！しゃ、しゃ、しゃつ！ヒバリさん、ヒバリさん、ヒバリさんっ！！！」

何かに焦って、主旨を言わず、僕の名前しか連呼しない彼女に僕は「ああ、」と気づく。
ハルの両手が僕のシャツを握り締めていて、落ちた拍子にシャツのボタンが外れてしまったらしい。
何度も見ているくせに、未だに恥ずかしいのかな？
はだけてしまった僕の胸元を見て、ハルは真っ赤になって、顔を覆っている。

「・・・君って、ときどき刺激的なことするよね」

ときどき？

いや、毎日、かな。

刺激的な君。

だから、飽きない。
面白い、面白い、僕の三浦ハル。

「い、いわないで、くださぃ・・・ヒバリさんの、ばかぁ！」

「きょうや、でしょ」

呼び名だけ訂正させて、僕は顔を覆っていた彼女の手を掴む。
苺の真っ赤さで、アーモンドの瞳が潤んでいた。

「・・・お仕置き、だから」

それだけ言って、自分の欲情を君のせいにして僕は彼女の唇に自分の唇を合わせた。

僕のすぐ隣にマフィアという刺激的な世界があることを知っている。
だけど、僕は君を感じられる、刺激的なこの世界がいい。

END(2011.4.24)