並盛生徒Ｂの証言
「ひぃぃぃぃぃ！お許しを！」
並盛生徒Ｃの証言
ダダダダダダダ。(名前を聞いただけで、逃げちゃいました)
並盛風紀副委員長の証言
「あの人は、すばらしい人だ。あの人についていけば、安心だ」
「ぱんぱかぱーん！
と、いうことで、ヒバリさんは良い人に決定です！」
三浦ハルは、にっこりと笑って、片足を椅子の上にのせて、左手を腰にあてて、右手の人差し指を天井に向けて、
誇らしげに彼女の友人に宣言した。
「・・・・・どこが、『良い人』なのよ・・・・・」
彼女は、うんざりした顔で言う。
彼女の友達の三浦ハルは、最近、「雲雀恭弥」がお気に入りのようだ。
雲雀恭弥なら、他校生の彼女も知っている。
並盛中学の風紀委員長にして、最恐、最悪の不良。
「ほらハル、座って・・・みんな見てるわよ」
彼女はハルを椅子に座らせる。
「だって、草壁さんが・・・」
「草壁って、誰よ。大体、百歩譲っても、９９パーセントの人が、雲雀恭弥を恐れているじゃない。
ハルもそんな危険な人に近寄っちゃあ、駄目だよ」
「ヒバリさんは、悪い人じゃあ、ありません！
とっても強くて、並盛を心から愛して、動物好きで優しくて、その上、とっても可愛いんですからー！」
その大声に反応したのは、教室にいた全員。
みんなハルに振り返って。
「かわいい・・・？」
そんなこと言えるの、ハルだけだよ。
彼女は心の中で、全員の代弁者としてつぶやいた。
「もうっ。なんなんですか。」
ブツブツ言いながら、ハルは並盛中学へ向けて、歩いている。
空は久しぶりに青空が広がっていて、スーッと気持ちの良い飛行機雲が、白くどこまでも伸びていた。
「みなさん、ヒバリさんのこと、誤解しています」
とっても、ステキな人なのに・・・。
晴れ渡った空を見上げても、ちっとも楽しい気分にはなれず、ハルは再びブツブツ言いながら、
２、３歩足を進めたとき、ハルの頭の中で、電球がピコーンと光った。
「そうです！並盛のみなさんに、ヒバリさんがステキな人だということを教えてあげましょう。
そうしたら、誤解もとけます。みなさん、ヒバリさんのこと、分かってくれます！」
ハルは、並盛中学へと向けた足を反転させて、自分の家へスキップしながら、駆けて行った。
「今日も来なかったですね」
並盛副風紀委員長の草壁は、風紀委員室になっている応接室で、つぶやいた。
雲雀がジロリと見る。
誰が？とは、言わない。
「いえ、独り言です」
彼の機嫌の悪さを感じ取って、草壁は、それ以上、口を開くのをやめ、扉を閉めた。
身近で彼に仕えていると、ちょっとした感情の起伏が分かるようになる。
今日も、委員長は、機嫌が悪い。
この最近、毎日のように来ていた、いつもの奇妙な口癖のお騒がせ少女、三浦ハルが３日も来ていないからだ。
あの、委員長が。
と、草壁は思う。
でも、分かるような気がする。
草壁は廊下を歩きながら、ふと、窓の外が騒がしいことに気がついた。
グラウンドを見ると、ひとつの塊を中心に人だかりが出来ている。
人だかりの真ん中に誰かと何かがあって、それを囲むように何人かが遠巻きに見ていて、ちょっとすると、
さっと逃げていく。
草壁は興味深そうに、人の動きを見ていたが。
・・・・・・・？・・・ん？あれは・・・・・・・。
よく目をこらして見てみれば、真ん中の誰かは、確かに見覚えのある人物で。
そう、忘れたくても忘れられない、緑中の制服を着た、あのポニーテールの少女は・・・。
草壁は、窓を開けた。
「ヒバリさんは・・・」
まず、第一声に飛び込んできたのは、かの尊敬する委員長の名前。
草壁は窓に身体を乗り出して、眉間にしわをつくって、目を細めた。
三浦ハルが、並盛の生徒をひっつかまえて、何かを言っている。
「ほら、こんな感じです」
「これが、ヒバードちゃん」
ハルの大声はよく通るので、何を言っているかはわかる。
あれは・・・なにをしてる？
ゴンっ！
草壁は、そのまま身体を折り曲げて、壁に頭を打ち付けた。
自慢のリーゼントは、壁にも負けない。
な、なにをしているんだ、三浦ハル・・・。
心を落ち着けて、もう一度、身体を起こして、現状を見る。
ハルは、どうやら紙芝居をしているようだった。
それも雲雀のことについて！
「・・・どうしたの？」
背後から声をかけられて、草壁はビクンっとする。
「いっ、いっ、いっ、いいんちょ・・・う」
振り向いた草壁は、ひきつった笑いを見せた。
「ん？」
草壁の視線を感じとって、雲雀は窓の外に目をやる、と。
同時に窓から、飛び降りた。
はっと我にかえる草壁。
「委員長！」
雲雀が飛び降りたあとを目で追いかけて、彼もまた駆け出した。
「もう、いいよ」
一人の並盛生徒が、顔に縦線をいれて、ハルの手を振り放そうとする。
「最後まで、聞いてください。ハルの力作なんですよ！ヒバリさんのことをもっと、ちゃんとよく知って下さい！」
「もう、知ってますからー！」
腕を振り払われて、ハルは、バランスをくずして、グラウンドにうつ伏せに倒れた。
「・・・うう、ハルはめげません！」
こぶしをグゥにして、立ち上がろうとしたとき、可愛らしい声が聞こえてきた。
「ハル、ちゃおっス」
「リボーンちゃん！ツナさん！」
「ハル！こんなところで、何、うつ伏せで倒れているんだよ」
「ツナさん、ありがとうございます」
ツナの手に引っ張られながら、ハルは起き上がる。
「ちょっと、色々、してまして」
「また、アホ女、来たのかよ。最近、静かだとおもったら、また騒がしいヤツが・・・」
「よぉ！久しぶりだな」
どやどやと、リボーンとツナに続いて、獄寺、山本、いつものメンツもやって来る。
「何だよ、コレ」
獄寺は、ハルのそばにある、紙芝居に気づき、画用紙の正面に立った。
「なになに・・・
題名『ヒバリさん物語』
・・・はぁ？ヒバリ物語？」
獄寺は、画用紙をめくって、読み続ける。
「１枚目．『ヒバリさんは、動物が大好き。ヒバードちゃんです』」
そこには、ヒバードと戯れる、ちょこんとした可愛らしい雲雀のイラストが描かれてあった。
「２枚目．『ヒバリさんは、並盛中学校が大好き。携帯の着信音は、校歌です』」
雲雀と携帯電話のイラスト。
携帯電話からは、丁寧に「緑たなびく、並盛の、大なく小なく並がいい〜」の歌詞付き。
「３枚目．『ヒバリさんは、お誕生日がこどもの日。プリティです』」
雲雀と、こいのぼりと、かしわ餅の可愛いイラストが、セットになって。
「４枚目．『ヒバリさんは、お仕事熱心。今日も風紀委員室でお仕事です』」
応接室で、机に座って書類を見ている、雲雀が描かれている。
「５枚目．『ヒバリさんの頭は、まるい。今日も髪の毛、サラサラです』」
雲雀のうしろ頭が描かれてあって、わざわざ「サラサラ」と「まるい」という注意書きまで赤ペンで目立つように
大きく書かれてある。
それぞれに、ハルが描いたであろう、可愛らしいデフォルメされた雲雀と、それぞれのアイテムのイラストが
丁寧に描かれてある。
「・・・ぷっ！何だよ、これ！！！大体、ヒバリこんなに可愛くねーだろー！捏造だろ。ねつぞー！」
獄寺は、こらえきれない、というように、体をねじらせて、腹を抱えて、ブルブルと震えている。
「ハル・・・すごいね・・・」
「これは・・・なかなか・・・」
ツナも山本も、顔がゆるんだと思うと、「ぷっ！」
「あはははははははは！」
一同、肩を震わせて、盛大に笑い出した。
「はひー！なんなんですかっ。笑うところですか？ハルの力作ですよ！
３日もかけて、がんばって作ったんですよ！獄寺さん、捏造ってどういう意味ですか！」
ハルは、頬をふくらませて、彼らに文句をひとしきり言ったあと、視線を上に向けて、
「・・・それなのに、どうしてヒバリさんは、何故、そんなに怒っていらっしゃるご様子なのでしょう・・・」
とまどうように、つぶやいた。
「え！」
「ヒバリ！？」
雲雀の名前を聞いた途端、背後から暗黒のオーラを感じて、ツナたちは後ろを振り向いた。
「ひ！」
アイスバーンの漆黒の瞳と、凍るような微笑をたたえて、彼はツナたちを見ている。
「なに・・・群れてるの・・・」
ゆらり、と暗黒のオーラは動いて、雲雀はトンファーを構えた。
ツナは、「ひぃ！」と体を膠着し、
山本は、「まぁまぁ」と手で制止しようとし、
獄寺は、「１０代目、下がっていてください」とダイナマイトを指に装着した。
さっきまでの、和やかな空気はどこへやら、ピリピリと緊張した空気が漂う。
雲雀のトンファーが、ゆっくりと上にあげられたとき、
「はひー！デンジャラスなことは駄目ですー！」
ハルが雲雀の目の前に飛び出した。
「んなー！ハル！危ないよっ！」
「おいっ・・・」
「このっ、アホ女！」
雲雀はトンファーを上にあげたまま、彼女を睨みつける。
「・・・・・君、どういうつもり・・・・・」
雲雀のバックに「ゴゴゴゴゴゴゴゴ」と効果音が聞こえてくるのをツナは感じた。
「ハル・・・」
獄寺が、足をジリジリ動かし、山本がバットに手をかけたとき。
ハルは叫んだ。
「だって、ハルは、ヒバリさんが悪く言われるの、我慢ならなかったんです！
みなさん、誤解してます！
本当のヒバリさんは、すっごく優しくて、かわいくて、素敵な人なのに！
それを、ハルが並盛のみなさんに、教えていただけです！わかって欲しいんです！
それが、そんなに、いけないことですか！？」
しーーーーーーーーーーーーーーーーん。
場が、静まりかえった。
んなー！ハルー！
君が一番、誤解してるって！！！
ツナを筆頭に、そこに居た誰も彼も心の中で、つっこんだ。
ハルは、正論正しく、胸をはっている。
雲雀は、眉ひとつ変えず、無表情のまま。
草壁は、目に涙をため、何度もうなずいている。
数秒の間。
ため息、ひとつ。
雲雀は、トンファーを下げた。
「もう、いいよ・・・」
雲雀は、諦めたように、言い放った。
「・・・いいけど、迷惑だから、それ片付けて帰って・・・」
雲雀がなんとなく肩を落としているように思われて、ハルの正論正しくは、しぼんでいく。
「・・・あの、もしかして・・・ご迷惑でした？」
「すっごく迷惑」
恐る恐るたずねると、速攻で返事が返ってきた。
ハルはガーンっとなって、ヨロヨロと後ずさりして、ガクリと首をおとす。
「はひぃ・・・ヒバリさん。ご迷惑だったんですね・・・それで怒ってたんですね。
ハル、余計なお世話してたんですね。すみませんでした、・・・片付けます」
トボトボと紙芝居を片付け始めた。
・・・・・・えぇー？・・・・・・
張り詰めていた恐ろしい事態が、あっけなく収拾されてしまって、ツナたちは拍子ぬけした。
「意味、わかんねー」
ボソリと獄寺がつぶやき、ダイナマイトを収納する。
山本もホッとしたように、息を吐いた。
よく分からないが、とりあえず、何事もなく済んだようだ。
「はー、良かったー」
ツナは安堵して、ふと視界に入った雲雀の顔は。
それは、今まで見たことのない、優しい表情で。
・・・こんな顔も出来るんだ・・・
ツナは、驚いた。
彼の視線がどこにつながっていたのか、気がつかなかったけれど。
でも、なんか、分かるような気がする。
ツナは、雲雀のあの表情を思い出した。
そっか、あれは、もしかしてハルに向けたものだった・・・のかな？
「・・・なんか、俺、面白くないっす」
「え？」
獄寺は、ボソッとつぶやくと「では、１０代目！また明日！」
何事もなかったように挨拶をして、手を振りながら、帰っていく。
「俺も、うかうかしてられねぇな！」
「は？」
「じゃあな、ツナ」
獄寺と山本の後姿を見送りながら、リボーンはニヤリと笑った。
「ふーん、面白いことになってきたな」
「何がだよ。リボーン」
「ツナもうかうかとしてられないぞ。ハルがいつまでも、ツナのことを好きでいるとか、思いこむなよ」
「なっ！か、関係ないだろ。それに、俺は京子ちゃんのことが・・・・・」
「まぁ、いいさ」
「リボーン！」
二人の影が、夕日に照らされて、長くなる。
ヒバリさんとハルか・・・。
・・・危険人物と、天然少女の組み合わせ？
ツナは、二人のことを思い出して、頭をブルブル振った。
「ありえない」
「ん？何か言ったか？」
「いや、なんでもないよ」
でも。
もしかして、ありえなくもないかも・・・。
ツナは、心の中で、もう一度、思った。
再び、風紀委員室。
「草壁、三浦から、あの紙芝居、もらってきて」
「どうするおつもりで？」
「飾る」
「は？」
草壁は、もう一度聞きなおそうとしたが・・・やめておいた。
案外、気に入っているご様子で・・・。
明日にでも、三浦に持ってきてもらおう、きっと彼女は喜ぶだろう。
草壁は手帳に早速、予定を書き込んだ。
END