「それ、暖かそうだね」
「ぐえっ！」
ぐいっと後ろから、急に引っ張られて、思わず、そんな声が出てしまう。
・・・その声は・・・
「ひ、ヒバリさんっ！・・・もうっ、なにするんですかっ」
「うん、手触りもいい」
「ぐえっ、って乙女にあるまじき声を出しちゃったじゃないですかっ」
「色合いもいいな」
「・・・・・ヒバリさん、ハルの話、聞いてますか？」
ヒバリさんは、ハルのマフラーをじろじろ見ています。
話をひとつも聞かないで、マフラーのことばかり言っているのは、もうっ、なんなんですかっ、て感じなのですが、
実は、内心とっても嬉しかったりするのです。
だって、ハルの手編みマフラーなのですから。
「・・・ねぇ、これ頂戴」
「はひ？」
「気に入ったよ」
「だ、駄目ですよ、あげられないです」
突然の言葉に、ドクンっとして、掴まれていたマフラーを咄嗟にひっぱり返してしまった。
ヒバリさんは、眉をちょっと寄せている。
「どうして？」
「駄目なものは、駄目なんですっ」
守るようにして、マフラーの両端を握って、スザッと後ろにさがる。
ヒバリさんと対峙する形になる。
じろっと睨まれても、マフラーはあげられません。
駄目なものは、駄目なんです。
「・・・仕方ないね。」
「あっ・・・」
ふぅっと息を吐いたヒバリさんを見て、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
「あの、ヒバリさん、ごめんなさい」
「別にいいよ。君のものなんだし」
「あの、ハル、が、頑張りますから、頑張って！と言ってください。」
「は？なに、突然」
「お願いです！」
手を胸の前にくんで、ヒバリさんを見る目にじっと力を込める。
お願いですから・・・言ってください。
ハルに、勇気を、勇気をください！
「・・・・・がんばって」
あ、言ってくれた。
「はひー！ハル、頑張りますからっ！ぜんぜん、力がこもってない棒読み状態の言葉でも、ヒバリさんから言われると
すっごくパワーになりますからっ！ハル、頑張ります！
それじゃあ、また明日です！」
駆け出した足は、自然にスキップとなる。顔がだんだん、にやけてくる。
あぁ、良かったです。安心しました。
マフラー気に入ってくれそうです。
本当はどうしようか、ずっと考えていたんです。
ハルの愛読雑誌『純情乙女ｖ恋のバイブル ３月号』のバレンタインデー特集で、彼女じゃない女の子からもらって困る
プレゼントの上位に位置していたし、コメント欄には「手編みは、ちょっと重い感じがする」とか書かれていたから、本当は渡そうかどうか、今日まで、すっごく、すっごく、すっごく迷っていたんですが・・・。
お陰で勇気がわきました。
ハル、頑張ります。
あと、もうちょっとなんです。
もうちょっと、で出来るから。
あとはアイロンで整えて、可愛いラッピングに包んで、リボンを結んで、メッセージカードを書いて。
万全の状態で、明日、あなたにチョコレートとプレゼントを渡します。
だから、今日は待って・・・。
「ハル、ファイトですー！！！」
大声で、えいえいおー、って叫んで手を上げながら、走り去ってしまった彼女の後姿を見ながら、くすり、と雲雀は笑った。
「えいえいおー、・・・だってさ」
肩の上の小さな黄色の小鳥に話しかけるように言うと
「ハル、がんばれー」
と小鳥も鳴く。
雲雀は再び、くすりと笑って。
がんばって。
心の中でもう一度。
手編みのマフラー、くれるんでしょ。
一生懸命、編んでたの知ってるよ。
一生懸命、悩んでいてくれたことも。
待ってるからさ。
明日は、バレンタインデー。
女の子が男の子にめいいっぱいの勇気をだして、愛を告白する日。
その前に、勇気を出してくれる君へ、まず僕から、ちょっとしたプレゼント。
END