まわるまわるメリーゴーランド。
まわるまわるピンク色のかわいいコーヒーカップ。

幼いころ、お父さんを急かして何度も話してもらったおとぎ話で、灰かぶりの少女は、魔法使いから一夜の夢をプレゼントされる。
キラキラ光る豪華な舞踏会で、大好きな王子さまとめぐりめぐるような夢のひとときを過ごして。
でも、12時の鐘がなったら、魔法は終わる。
夢は夢。それ以上でも、それ以下でもなく。王子さまは、本当のお姫さまの元へ戻っていく。

つないだ手を離して。

-----　サンキュ　-----

カーン。カーン。カーン。
遊園地の閉館を知らせる鐘が鳴り響いている。
沈みかけの夕日があたりを赤色に染めて、でもそれが沈むとすぐに薄暗くなるだろうと思われた。

名残惜しそうに、遠目で遊園地を見たあと、お願いしてつないでもらった手をハルから、ゆっくりと離して、ツナと向き合う形をとった。
正面から見たツナは、なんだか気まずそうな、すまなさそうな、顔をしている。

・・・そんな顔、しないでください。
優しい人・・・。

ハルは、ツナを目をほそめて、愛しそうに眺めたあと、いちど口をひらきかけて、閉じた。
言いたくない言葉だったから、言うのはためらわれた。
それでも、いつかは言わなくてはいけない言葉。
ハルは、自分を鼓舞した。

がんばって、ハル。
ツナさんを困らせては駄目ですよ。

ハルは瞳を閉じて、もう一度、開けた。
「ツ・・・」
「ハル！」
ハルが言葉を言う前に、ツナが言葉をさえぎった。
ハルは、ツナを見つめる。
ツナは、一度目をキョロキョロさせたあと、決意したかのように、まっすぐにハルの瞳を見つめた。
「あの、その・・・ハル、今日はありがとう。楽しかった！」
「ツナさん・・・」
「ハルには、本当に感謝してるんだ。いつも励まされて、いつも支えられて・・・」
「本当にありがとう！」
一気に言うとツナは、頭をさげた。
「はひ、ツナさん、頭なんてさげないで。ハルだって、今日のことお礼言わないといけません。
今日は、すっごく楽しかったです。ハルのわがままを聞いてくださって、ありがとうございました」

カーン・・・。
最後の鐘がなり響いた。
「・・・遊園地、終わっちゃいましたね・・・」
ハルはポツリとつぶやいて、遊園地のほうを振り向いた。

ツナには、ハルが泣いているように見えて、心がズキリと痛んだ。
それでも、自分が選ぶ子はひとり。
あの子しか、いない。
あの子がいいんだ。
ごめん、ごめんね。ハル。

ハルには、ツナの顔がすまなさそうに歪んでいるように見えた。
ツナさんは優しい人だから、ハルのことを気遣ってるんですね。
それでも、ツナさんが選ぶ子は、あの子なんですね。
ハルじゃなくて。
選んで欲しかった。
それでも・・・。

「これで、ツナさんとお別れできます。」
ハルは、振り返って、自分が一番と思う、これが極上の笑みです！と言えるような笑顔をツナに向けた。
「ハル・・・」
驚いたツナの顔が、また一瞬、すまなさそうに歪む。
「あ、お別れといっても、これっきり会わないというわけでは、ありませんからね。
お友達としては、ずっとこれからも一緒ですよ」
ハルは、にっこりと微笑んだ。


「それでは、ツナさん、またね、です」
「・・・うん、ハル。またね」

ふたりは、そうして遊園地を離れた。

コツコツコツ。
ハルのブーツが、あたりに響く。

うん、泣いてはいなかった。
うん、笑っていられた。
うん、大丈夫でしたね。

コツコツコツ。
痛むどこか。
なにかの、どこかの大きな柱は崩壊寸前な気配が漂う。
それでも。
涙は浮かべない。泣くのは、まだ。
まだ、泣けない。
泣くのは、ひとり自分の部屋の中。
この想いをかみしめて。
この痛みはハルだけのものだから。
ドロドロに泣いてしまって、痛みを感じていたいから。
まだ、泣かない。
泣きたくない。

コツコツコツ。
やっと自分の家の前についたとき、誰かが玄関の前に立っているのに気がついた。

「・・・やぁ」
「ヒバリさん・・・」
ハルは立ち止まった。
雲雀は相変わらず、学ランを肩にはおっていた。
「ヒバリさん、どうしたんですか？ハルのお家に何か用ですか？」
「別に、用はないのだけど」
「そうですか、では・・・」
再び歩きだした、すれ違い様、ハルの頭の上にぽんっと手がのせられた。
「・・・えらかったね」
ハルの足は止まった。
両肩がふるえる。

・・・どうして。
この人は、どうして、こう・・・。
絶妙なタイミングで現れて・・・。

そのまま逃げるようにハルは家の中に駆け入った。

泣くのは一人で。ドロドロに泣いて、泣いて、泣いて。
溶けるように泣いて。この痛みとともに泣いて。
泣いて。泣いて。泣いて。
そうしたあとに。

今度はあなたの優しさにまた泣くのだろう。

END