７月に入ってまもないのに、既にうだってしまいそうなくらい暑い日が続いている。
ちょっと前までは、雨がザアザア降り続いていたり、ぶ厚い灰色の雲が空を覆っていたりして、あの太陽やあの青い空が待ち遠しいほどだったのに、夏の始まりの洗礼は急に始まって、容赦なくハルに降り注いでいる。
背中に流れる汗は止まらないけれど、今日は晴れて良かったと彼女は思う。
ハルは今日のこの日の素敵なイベントを教えてもらっていた。
だから、どれだけ太陽光線がハルに降り注いでも、足取りは軽い。前の日から、こっそり、てるてるボーズも作った。
そのお陰か今日も晴れだ。ぴっかぴかの晴れだ。
だから、こんな暑さも大丈夫、気にならない。
むしろ、嬉しいくらい。
並盛中の校門をくぐって、慣れた足取りで目的の場所へ進んでいくと、途中、グラウンドに大きな笹が揺れてあるのが見えた。それに、せっせと飾り付けをしている黒い学ラン軍団に、リーゼントの背の高い男が何か命じている。
今日の日のために草壁以下、風紀委員たちが必死になって探しまわった大きな立派な笹には、すでに赤や青や黄色の輪っかが連なっていたり、水色の折り紙で作られた天の川をイメージしたあみかざりが揺れていたり、オレンジ色やエメラルドグリーン色の星型に模られた厚紙がクルリと回っていたり、様々な願いごとが書かれているであろう、五色の短冊が飾られていたりして、ハルのテンションは、ますます高くなる。
「草壁さーん！頑張ってくださーいっ！」
ハルが大きく手を振ると、その声に気づいた草壁は、振り返って手を小さく振った。
あれ？副委員長、赤くなってますよ。
うるさい。
そんな会話が交わされている場所をあとにして、早く、早く、早くとハルが向かう先は、このイベント『並盛七夕祭り』を開催した並盛風紀委員長がいる応接室。
「ヒバリさん！晴れて良かったですねー！」
「・・・ということ、よろしくね」
「はい」
思わずドアを勢いよくバンっと開けてしまって、飛び込んだ先に見えたものが、雲雀と風紀委員の打ち合わせ途中のような感じだったので、ハルは小さな声で「す、すみません」と後ずさってドアを閉めようとした。
「君、もういいから・・三浦！おいで」
呼ばれて風紀委員と入れ替わりになりながらハルは応接室に入って、雲雀の側までやってくる。
「あの、お話、良かったのですか？」
「もう用は済んだから、大丈夫だよ」
「そうですか、良かったです」
では、早速・・・とハルはカバンから黒いペン２本と赤色・青色・黄色・白色・紫色の短冊をどんどん取り出した。
「いっぱい短冊、持ってきたんだね。」
「はい！願いごとはたくさんあります！
新体操のリボンが上手くなりますように、英語が上手に話せるようになりますように、ラ・ナミモリーヌのケーキの種類が増えますように・・・って、ハル欲張りすぎでしょうか？」
自分を見つめる雲雀に、急に恥ずかしくなって、ハルは少し声のトーンをおとした。
「いいんじゃない。欲望に忠実なのは、良いことだよ。三浦は三浦らしく、それで良いんじゃない」
「そう、ですか・・・えへへ」
雲雀が少し微笑んだ気がして、ハルは嬉しくなる。
「雲雀さんは、願いごと、書かないのですか？」
「うん？書くよ」
「何を願うのですか、雲雀さんは」
「ヒミツ」
「えー！教えてください、ハル、雲雀さんの願いごと、知りたいです」
「・・・もっといっぱい、咬み殺すことができますように」
「はひー！ダメです！そんなのデンジャラスすぎです」
「嘘だよ」
「はひっ！雲雀さんっ」
「教えて欲しい？」
「はい、とっても」
「じゃあ、キスして」
「はひ？」
「キスしてくれたら・・・教えてあげるよ」
「は、ひ、は、え、え、え・・・えぇー！！！」
「はい、どうぞ」
頬杖をついて、瞳をとじている雲雀を見て、これは夢かしら、と思う。
短冊に書く前に、願いが１つ叶おうとしている・・・なんて。
それにしても、なんて綺麗なお顔でしょう。
睫毛にかかる前髪は、サラサラと流れる音が聞こえてきそう。
その睫毛は、とっても長くて、切れ長の黒い瞳なんて、吸い込まれそうで・・・って
「はひ！目、なんで開けてるんですか、雲雀さんっ！ぶふっ！」
思わず顔を近づけて、まじまじと雲雀の顔を見つめていたことに気がついて、ハルは真っ赤になりながらパッと引き離そうとしたとき、雲雀の細長い指がのびてきて、ハルの柔らかいほっぺたをムニュと掴むと、そのまま左右にひっぱった。
「ひ、ひばりひゃん、何するんでひゅか」
「変な顔だね、三浦」
「ひばりひゃん」
「いいよ、特別に教えてあげる。今日の僕はとっても機嫌がいいから」
くすくす笑って、雲雀はパッと指を離した。
きゅきゅきゅと目の前にあった紫色の短冊に書き出される雲雀の文字を見て、驚いた顔をして、それから笑顔になっていくハルが、
「雲雀さん、ハルも・・・ハルもです！ハルもそのお願い、昨日から書いていたんです！」
と、ゴソゴソとカバンから取り出して、１枚の短冊を見せて、「一緒って、嬉しいです」って笑った。
その笑顔が本当に嬉しそうで、そしてひどく可愛くて、雲雀は腕をひっぱって、ハルの頬に軽く唇をよせる。
「ひ、雲雀さんっ！」
真っ赤になったハルをそのままギュッと抱きしめて。
同じことを願う。そんな繋がりが嬉しい。
「じゃあ、行こうか、三浦」
「はい！雲雀さん」
ハルが作った七夕の飾りと二人のお願いごとを書いた短冊をもって、ハルと雲雀は応接室をあとにして、草壁が待つグラウンドに歩きだした。
今日は七夕。
願いごとはなに？
叶ったら、いいね。
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いちゃラブのヒバハルと、七夕祭りを開催する風紀委員長と笹に飾りつけをする草壁さん＆風紀軍団が書きたかったです(笑)
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