さっきまで苦痛の表情をうかべていた少女がやっと落ち着いた寝息をたてるようになった。
彼は、その様子を見下ろすと、安堵の表情をうかべた。
自分の処置には自信があるが、やっぱり可愛い女の子の、それも見知った少女が苦しむさまは短いほうが良い。

保健室の窓から風が入るようになって、カーテンがゆらゆら揺れている。
夏もお盆を過ぎると、夕暮れに近づくたびに、空の色が変化して夏の風が秋の風に変わっていくのを感じる。
ハルの前髪を風がさらっていって、少しでも彼女の安眠の手伝いをしてくれたら、と彼は思う。

ああ、可愛いなぁ。ハルちゃんは。
いっつも元気で、素直で、健気で、そして可愛いなぁ。

並盛高校の「保健室の先生」として、ちゃっかり就任していたＤｒ.シャマルには、女子高生を恋愛対象としてみる趣味はないが(どっちかというと気が強い美人系が好き・・・そう例えばスモーキン・ボムのお姉さんみたいな)やっぱりこの子には、愛情とか恋情とかではないにしろ、特別にひいき目にみてしまう。
そうでなくても、彼自身の性分は女好きの伊達男なのだ。

それでも他意はなく、そっと手をのばして、彼女の前髪を目の上からはらってあげようと、ベッドに体重をかけた矢先―。

「・・・なに、してるの？」

チャキ、と、首筋に冷たい金属を当てられているのを感じて、彼は自然に両手をあげた。

「・・・お早い、おつきで」
「容態は？」
雲雀は返答せず、シャマルの首にトンファーをあてたまま、端的に冷たい声で聞く。
その声色に苦笑しながら
「夏の疲れからくる風邪だと思うよ。今は薬を飲んで(本当は「トライデントモスキート」を使ったのだけど、それは秘密)、落ち着いているから心配しなくていい。ぐっすり眠って目覚めたら、熱は下がっていると思うから」

だから、その物騒なものを振り回してハルちゃんを起こすことだけは、やめてくれよ。

そう、付け加えて言うと、雲雀はハルのほうをチラリと見て、不満そうにトンファーをおろした。

「・・・連れて帰る」
「は？」
「君のような変態ドクターがいるところになど、いつまでも置いておくと、彼女も安心して養生できないからね」

そう言い終わらないうちに雲雀は彼女の布団をはぎ取ると、携帯電話をとりだした。
・・・草壁、そう、三浦の鞄を持ってきて、そう、三浦の早退届けも頼む、うん、車の手配して、そう至急に。
命令しながら、呆気に取られているシャマルの目の前で素早くハルの体を持ち上げる。

わお、お姫様だっこ、だよ。あの雲雀恭弥がね。

内心、彼の彼女に対する執着が目に見えてわかって、シャマルは吹き出しそうになった。
彼はギャップが面白すぎる。
表情にはださないように耐えた自分は偉いと思う。雲雀と戦っても、まだ命くらいは守れるとは思うが、可愛いあの子を起こしてしまう。それはシャマルにとっても、雲雀にとっても本意ではないところだ。

そうこう思っているうちに無言でハルを連れていく雲雀にシャマルは「ハルちゃんに、よろしくね」と声をかけて、案の定、返事のない背中を見送った。

「・・・う、うぅん」
ぼんやり目を開けると、いつも見えているはずの自分の部屋の天井が見えなくて、ハルは混乱した。
「はひっ？！」
ガバッと反射的に起き上がると「・・・気分はどう？」ふいに声をかけられて、声のする方へ頭を向けてみれば、雲雀が自分を見つめている。
「・・・ヒバリさん？」
首を傾げて、彼をじっと見つめる。あまり、まだ状況がつかめていない。
「えと、ハル、確か・・・」
今日は学校に行っていたはずで、・・・あれ？途中から記憶がない。
「・・・君は熱を出して学校で倒れたんだよ。まったく高校生にもなって、子供じゃないのだから、自分の健康ぐらい、ちゃんと管理してよね」
「ご、ごめんなさい、そっか、そういえばハル・・・」
雲雀の毒舌に思わず謝ったものの、今朝からの自分の様子を思い出してみる。
確かに朝から気分がすぐれなかったけれど、熱も高くなかったし、明日は休みだから、今日１日をなんとか乗り切れたら、と思って学校に行ったのだった。

「・・・もしかして、ヒバリさんがハルを連れて帰ってくださったのですか？」
「そう。あの保健室は危険だからね」
きけん・・・？
ハルは並盛高の校医を思い浮べた。
シャマルは中学からの知り合いだ。そして、ハルが敬愛するビアンキの友人の１人だ。
悪いひとでもなくて、いつも明るく優しくて、むしろ良いひとであるが、確かに時々ハレンチなことを言ったりする。
雲雀が言う「きけん」とかではないと思うのだが、そこは口をつぐんでおく。

「・・・確か、」
「はひ？」
「君の両親は昨日から学会とかでいないのだろう？」
「・・・そ、そういえば・・・」

シャマルについて、そんなことを考えていたハルに雲雀はハル自身も忘れていたことを思い出させた。
ハルの父が大学の数学教授で、年に何回か学会があり、ハルの母親もそれに着いて行っている。何日か前にハル自身が雲雀に自己申告していたことだが、今日のドタバタで、すっかり頭から抜けていた。

・・・自分の世話を自分でしなければ。

ハルは心の中で呟いて、自分の体調を顧みる。
うん、そんなに悪くない。まだ体のダルさはあるけれど、熱はひいた「君、今日はここに泊まっていったら良いよ」みたい・・・はひ？
雲雀さん、今、なんて言われました？
「・・・僕の家に泊まっていったら、と言ったんだよ」
ハルの心の中の疑問が口から出たのか、ポカンとしているハルに雲雀はもう一度同じことを繰り返し言わされて、ムスッとしている。
「・・・えっと、ハル、あの、」
雲雀からの突然の申し出にハルは頭がついていかない。
え、泊まる？こちらに？雲雀さんのお宅に、ハルが？はひ？
言葉が続いて出てこないハルに雲雀は「いいね」と一方的に宣言して立ち上がると、部屋を仕切っている雲を模したセンスの良い襖から出ていってしまった。
「はひー！ど、どうしましょう〜」
いきなり恋人の実家にお泊りになって、心の準備が何も出来ていないハルは、そのまま情けない声をあげて、顔を布団に俯せた。

「・・・なにがどうなったら、こんな状態になってるの？」
雲雀はハルのおでこに右手を当てて、呆れたようにハルを軽くにらむ。
「はひ・・・ごめんなさい」
冷たい雲雀の大きな手は、ハルの熱を持ったおでこにヒンヤリと気持ち良くて、ハルは目を細める。
さっき起きたときには調子が良さそうだったハルだったが、雲雀が部屋に戻ってきたときには、何故かハルの顔は火照っていて、瞳はウルウルしていて、明らかに熱がぶり返したみたいだった。

「・・・君が謝る必要はないよ・・・あのヤブ医者、目が覚めたら熱が下がっているだろう、とか言っていたのに・・・咬み殺す！！」
「はひ！違うんです、ヒバリさん！シャマルさんは悪くないんです！」
物騒なことを言い出して、どこからともなくトンファーが現れて、今にも飛び出しそうになった雲雀をハルは慌てて止める。

「・・・ヒバリさんのお宅に一宿一飯のご恩をいただくことになって・・・」
一宿一飯のご恩って、君・・・。
一体、いつの時代の人間なの？、雲雀は思わず突っ込みそうになったが、ハルが言葉を続けたので心の中で、ぐっと収める。

「ヒバリさんのご両親にどのようにご挨拶しましょうか、自分の健康管理も出来ない情けない女ですが、末永く死が二人を別つまでヒバリさんとお付き合いさせていただきたく・・・とか？
はひっ！いえっ、これじゃあ、ハル、結婚を前提にお付き合いを申し込みにきたみた・・・はひー！ちがっ！そ、そうじゃなくてっ！」
「えっとハル、髪の毛もめちゃくちゃですし、お顔もベストコンディションとは言えないですし、はひ！いえ！決してハルのベストコンディションのお顔が良いとも言えませんが！
ですが、初めてお会いするヒバリさんのお父様、お母様に少しでも良い印象を残せますように、ハルとしても色々と準備してお会いしたく・・・いずれはハルのお父様、お母様になられる方々かもしれませ・・・はひぃ！い、今のは忘れて、忘れてくださいっ！」
「と、とにかく！そ、その、そのようなことを色々と考えていたら、何やら頭がクラクラして、顔が火照ってきまして・・・ですのでシャマルさんのせいでは決してなく、ハルが色々と考え過ぎてしまったせいだと思うんです・・・」

一気にまくしたてて最後は語尾を小さくしながら、ハルは顔を真っ赤にして俯いている。
― あぁ、僕の家に急に泊まることになって、色々考えてしまって、混乱して熱が再発したのか ―。
雲雀はハルをじっと見つめる。
思わぬハル側の理由に、シャマルを咬み殺せなくなって、残念な気持ちはあるが、ハルのいじらしさが心地好い。

「・・・ハル」
「んっ」
指を滑らせてハルの顎を掴むと雲雀は自分の唇をハルに合わせた。
舌を絡めると、少し熱い気がする。心地好い。気持ちいい。
いつものように、ゆっくりとハルを味わっていると「んー！んー！」ハルが唸りながら雲雀の胸元を叩きだした。
ハルから何かを訴えられて、雲雀はしぶしぶ唇を外す。
「・・・なに？」
ムスッとしてハルを上から睨むと、ハルも負けじと上目遣いで雲雀を睨む。
「ご、ご両親がいらっしゃるのに、このようなハレンチなこと、いけません！」
「・・・いないよ」
「・・・はひ？」
「今日、僕の両親はいない」
「え・・・えーっ！！！」
「うるさい」
ハルがつんざくような叫び声をあげて、雲雀は眉根を寄せて、さっきの続きをしようとハルの頬に回そうとした手を自分の耳を塞ぐために使うことになった。

「ど、どうして教えて下さらなかったのですかっ！」
「・・・聞かれなかったから」
しれっと雲雀からそう言われてハルは瞳を吊り上げた。
「はひー！そっそういう問題ではありませんっ！」

雲雀としては、両親が今日いないことは当たり前の事実であり、またハルがそこまで自分の両親について考え込むとは思いもしなくて、言わなかっただけなのだが、ハルは重ねて雲雀にかみつく。

「そういうことは、先に教えていただけませんと！ハルは、せっかく体調が良くなっていましたのに、熱が出てしまうほど、心臓が爆発してしまいそうなほどドキドキバクバクして、色々と考えてしまいましたのに！」
「・・・君が」
僕が少し場をはずしたときに勝手に色々と考えすぎて、勝手に熱をだしてしまったんだろう。
反論のため、雲雀は口を開きかけたが、ハルはその隙を与えなかった。
「ハル、ハルのあれだけ悩んで、考えて、ドキドキして、バクバクして、グルグルして、緊張して心臓を痛めた時間を返してくださいっ！熱をださせた責任を取ってください〜！！」
最後はやけくそ気味に叫ぶハルに雲雀は今度こそ反論しようとして・・・一拍、その表情を変えた。

「・・・ふぅん、僕、責任取らないといけないんだ」
「そうですっ！ヒバリさんは、ハルの熱の責任を取ってくださいっ！！」
ハルは興奮して、悪戯っぽく言う雲雀の様子が変わったことに気が付かない。
「うん、責任とってあげるよ・・・」
そう雲雀は低く呟くとハルの首筋にカプリと噛み付いた。
「はひゃぁっ！」
奇妙な声をあげて驚いたハルが雲雀の肩に手をおいて、突然の行動をしだした恋人を制する。
「な、何を、何をいきなりされるんですかっ！」
雲雀はケロリとして答える。
「だって、熱がでた責任を取れって君は言っただろう」
「風邪、というのは接触感染でうつるらしいから、僕にうつせば、君の熱はさがるんじゃない？」
「そっそんな！だいいち、ハルの熱は風邪のためにぶり返したわけじゃ・・・」
「・・・そんなこと知らない。だけど、僕はハルが熱をだした責任の取り方をこの方法しか知らないしね」
そう言いながら雲雀はハルの耳たぶをカプリと噛む。
「ひゃっ！」
ウソです。こんな方法じゃなくても、知っているクセに！
そう言いたいのに、つつぅ・・・と首筋を雲雀の舌で辿られると言い返せない。
「・・・それに」
涙目になっているハルの目の前で、雲雀は悪戯っぽく笑む。
「君は気づいていないようだから教えてあげるけど、誰が君の制服を着がえさせたと思うの？」
「はひ？」
雲雀に問われて、はた、とハルは気付く。

・・・そ、そういえば。

そういえば、いつの間にかハルが身にまとっているのは、キチリとしたいつもの並盛高のブレザーではなく、左右閉じて纏う柔らかくて肌ざわりが優しい白色の木綿の浴衣であった。
寝間着用として使用されているためか、寝やすいように帯は前で止められており、着心地も良かったため違和感が何も感じられなかった。

「い、いつの間に・・・」
ハルは、さーっと顔色が青くなる。
確かに今日は学校で知らないうちに倒れてしまって、気がつけば雲雀の家で眠っていて、突然、雲雀の家に泊まることになって、雲雀の両親について、あれこれ考えて・・・いろいろと立て続けにあって頭が働いていなかったけれど、こんな身近なことに気がつかないなんて。

しかし雲雀の次の台詞はハルの顔色をさらに青色から白色にかえるほど強烈だったのである。
「そのまま寝かせると、並高の制服がしわになるし、君はいつも制服を綺麗にプレスして着ているから、僕も気になってね。それに君は汗もかいていたから、下着の上からだけど僕が汗を拭いて、着がえさせた」
「いやーっ！うそですー！！」
自分の知らないところでの驚愕の事実にハルは先程よりも大きな叫び声をあげて、雲雀はまたもや耳を塞ぐことになった。

「は、ひ、は、ひ、ひば、ひば、ひば・・・」
あまりの恥ずかしさと驚きのハルが口をぱくぱくさせて言葉が出せないのを尻目に雲雀はしれっと話を続ける。
「そのときは君も風邪をひいていたから、僕は何もしなかったけれど、今回は責任を取れ、という君の許可もいただいたことだし・・・ね」
雲雀はハルの目の前で、ハルが思わず見惚れてしまうような、美しい笑みを浮かべ
「僕は僕なりのやり方で、君に償わせてもらうよ」
そのままハルの唇を奪うと、流れるようにハルの身体を傾けた。

「・・・ん、んぅ・・・」
ハルの両肩から胸元のあたりまで浴衣がゆっくり下げられて、ハルの肌に空気がふれる。
深いキスを与えながら雲雀の手はハルのレースのついた薄ピンク色のブラジャーを押し上げて、ハルの膨らみへ直接触れる。
「んー！んんっ」
焦って雲雀の行為を阻止しようとしたハルの両手は、雲雀の左手で軽く頭の上で押さえられ、その間にも雲雀の右手はハルの形のよい胸をなぞっていく。
「・・・はぁっ、はぁっ」
長く深く意識ごと奪われてしまいそうな雲雀の口づけから解放されたハルが息を整えようと空気を求める。
涙目のハルは、ぼぅっと視界に入った天井を見つめた。

― あぁ、ハルのバカバカバカ！余計なことを言っちゃった。
ヒバリさんに言質をとられてハルが勝てるハズありませんのに―。

「あっ！やんっ！」
びくり、とハルの身体が震えた。
ハルがふいに意識を違うことへ飛ばした隙に、戻ってこいとばかり、雲雀がハルのピンク色のつぼみを強く吸って刺激を与えはじめる。
「んんぅっ。ふあぁっ。」
「・・・君は感度がいいね」
「そっ、そんなこと、ないっ、あっ」
顔を左右に振って懸命に否定するハルを見つめながら、もう一方のハルの胸の頂きを指の腹で擦る。
「あっあぁっ」
びくびくっと雲雀に与えられる愛撫にハルは身体を震わす。

雲雀によって頭の上に固定されたハルの両手が、雲雀の攻めに耐えようとギュウッと強くこぶしを作る。
雲雀はハルを押さえていた手をはなすとハルは腕を伸ばして、雲雀に抱きついた。

ゆっくりと雲雀の手が、いつの間にか帯を解かれた浴衣がハルの身体を中心に広げられて、顕わになったハルの腹をたどり、太ももをたどると、ショーツの隙間からハルのそこへ指を滑らせる。
「あっ！やぁっ！」
弾かれたように跳ね上がるハルの足。これからの快楽から逃れようと無意識に閉じようとするハルの足の動きをいち早く雲雀は察して、彼自身の足を入れ込んでハルの動きを阻止する。

「・・・濡れてる。やらしいね」
ぬるぬるしているそこに雲雀は指を慎重に動かしながら、ハルの顔を覗きこんで、ニヤリ、とわざと追い詰めるように教えると、ハルは羞恥でポロポロ涙を落としながら、いやいやと首を振る。
そんなハルに口づけを与えながら、指を少しずつ増やして、自分自身の足でハルの足をゆっくりと広げさせる。
ハルの敏感な箇所を探して、集中的に刺激を繰り返していくと、くちゅくちゅとハルの愛液がまして、きゅっと雲雀の指をからめとるようにハルの内がしまりだす。
ハルの嬌声が甲高くなって、はぁっはぁっと空気を求めようとしている。
ハルの中で何かが弾けて、ハルは雲雀にしがみついた。

絶頂に達したハルの火照った身体は雲雀に上も下も乱されて、ハルは頭がまわらない。
瞳をとろんと潤ませて、雲雀を求める本能だけで「ヒバリさん、ヒバリさん」とハルが雲雀の名を舌足らずに何度も呼ぶ。ハルに名前を呼ばれ、求められる度に雲雀の下腹がますます疼く。
潤んだ瞳にキスを落とし、ハルの唇を何度も何度も角度をかえてふさぐ。
二人はすっかり生まれたままの姿になって、雲雀はハルに愛撫を与え続けるとハルは頼るように雲雀の背中に手をまわしてぎゅっと抱きつく。
雲雀はハルの華奢な身体を抱きしめ、ゆっくりとハルの入り口へ自分のそれをあてがった。

すぅっ・・・と安らかな寝息をたてて寝入っているハルの黒髪を指でサラサラと遊ばせながら、雲雀はそばに脱ぎすてた並盛高のシャツやズボンを空いているほうの手で引き寄せた。
並盛高の男子の制服も女子と同じくブレザーだが、雲雀が着用しているのは中学のときから変わらず、学ランだ。
左腕には彼の象徴『風紀』の腕章。
それらをスルスルと身につけながら、雲雀はハルを見つめる。

ハルの胸元や首筋には自分がつけた赤い標がちりばめられている。
布団で隠れている部分にも、たぶん同じようにちりばめられていることが容易に想像出来て、雲雀は苦笑した。

― 今日は、無理をさせていないとは思うが・・・。

ふとするとハルの身体にとろけて自分の理性がぶっ飛ぶ。それで何度もハルに無理をさせてしまうことも度々だ。

確かにハルを保健室から両親の不在な自分の家に連れて帰ったときから、こういうことを考えていなかったわけではない。だが、ハルの体調を鑑みて、今日はハルを抱くことはするまい、と雲雀は思っていた。
・・・それは早くも崩れさってしまったのだが。

ハルの「責任」の言葉に対して、ハルを抱く口実、としたことは雲雀自身が一番よく分かっている。

僕はハルに溺れている。

雲雀自身が一番理解している。

恋とか愛とか、自分には縁のないことだと思っていた。
愛しい、とか、守りたい、とか、大切にしたい、とか、そんな感情なんて今まで知らなかった。
自分を御するのに努力しないといけないほど、ハルにのめりこんでいる。
そんな自分に雲雀自身が一番驚きながら、そんな自分を不快に思わない。

先のことは雲雀にはまだ分からないが、後にも先にも、ハルみたいな女はもう現れないだろう、と確信する。
雲雀はハルのおでこに唇を寄せると、頭を優しく撫でてそっとハルを起こさないように立ち上がった。

「はひぃ〜美味しいですぅ」
「やけどに気をつけてね」
「はいっ」
スプーンにのせた卵入りのおじやをハルはふぅふぅとしてパクンと口の中におさめる。
雲雀が作ってくれたという(ヒバリさん、何でもできちゃう、すごい！とハルが一口食べるたびに騒ぎまくり、雲雀が怒ってハルを黙らせた経緯がある)おじやの絶品の旨味がハルの舌のうえでじんわりと広がり、ハルの食はパクパクと進む。

「ごちそうさまでした。ヒバリさんが作ってくださったおじや、本当に本当にほんとーにっ！美味しかったです！」
「・・・そう、はい」
「ありがとうございます」
ハルは雲雀から薬と水を受け取ると、口にそれらを含む。

やっと、ハルが望んでいた本来の「責任の取り方」・・・看病を雲雀がハルにしてくれて、それがハルには嬉しいやら、でも照れてしまうやら、心がこそばゆい。

雲雀はハルの枕元にスポーツ飲料を用意して、ゴロリと横になったハルの上に布団をかぶせてくれた。
「ありがとうございます」
ハルはそばに座っている雲雀を見つめる。
「ヒバリさん・・・」
「ん？」
「ヒバリさん、大好き・・・」
「・・・ハルが寝付くまで傍にいるから」
ハルの唇に自分のそれをそっと重ねると、顔を真っ赤にしてハルが嬉しそうに微笑んだ。

END(2011.08.22)

「はひーっ！！」
一時のあと、大人しく寝ていると思っていたハルが急に叫んで、飛び起きた。
「急になに？」
ハルの傍らで本を読んでいた雲雀が眉をひそめて顔をあげる。
「ハル、今日はヒバリさんのお宅にご厄介になることをお父さんやお母さんに連絡していませんでした！急いで連絡しませんと、携帯、ハルの携帯電話はっ」

多くの子なら、彼氏の家に泊まることを、まして両親が出かけているなら尚更、誤魔化して内緒にしておくところだろうが、ハルは外泊をするときは、どんな状況であろうと、きちんと連絡をする子であった。

「もう、僕から連絡してある」
「はひ！？」
携帯を探そうと立ち上がろうとした身体を雲雀から制されて、思いもよらぬことを言われて、ハルはクリクリした瞳をさらに大きくして雲雀を見つめる。
「えと、ヒバリさんが、ハルの両親に、ですか？」
「うん、君の父親に連絡しておいた」
「いっ、いつの間に、ヒバリさん、ハルのお父さんの携帯電話番号を知っていらっしゃって・・・」
「以前から君の父親には懇意にしてあげているからね」

い、以前から？
こ、懇意にしてあげてる？

「え、と、それは、どういうことでしょう？」
「君のお父さんには『R≠Nr予想』について、助言を与えている」
「はひ？あーる、のっと・・・はひ？？？」
雲雀の言っていることがハルにはよくわからない。分からないが、雲雀の次の台詞はハルの頭につきささった。
「それに、君のことについて、よく頼まれたりもするよ」
「はひぃーっ！！」
「うるさい」
三度目の衝撃事実にハルは三度目のつんざくような叫び声をあげて、雲雀は本日三度目の耳を塞いだ。

確かに雲雀とのお付き合いのことはハルの両親に教えていたが、まさか雲雀と父親が娘の知らないところで、雲雀で言うところの「懇意」になっていただなんて。

ハルはバクバクする心臓に手をあてて、呼吸を落ち着かせながら、聞く。
「お、お父さんには、今日のことは、どのように言われたのですか？」
「君の容体と今日は君を僕の家に泊まらせる、ということを」
「お父さんは何て？」
「くれぐれも娘をお願いします、ってさ。僕は君のお父さんの信用は得られているってわけだ」
「・・・そうですか」
雲雀の口から「お父さん」という言葉がでて、ハルはちょっと赤くなった。
「だから君は何も心配しなくていいよ」
ハルの心情を知ってか知らずか、雲雀はニヤリと笑うと再び読みかけの本に視線を戻した。