どんどん、あの人に惹かれていく自分が許せなかった。
自分は、ツナだけに一途でありたかった。
それなのに、この体を切りつければ、零れ落ちるのは、あの人への恋だけなのだと、
どうして、思い知ってしまったのだろう。

-----　この体を切りつければ　-----

最初は良かった。
会おうと思えば、応接室へ行けば会える。
いつでも、並盛風紀委員室にいたから。

ツナたちが恐れている、並盛風紀委員長の雲雀恭弥という少年を、
ハルは、彼らたちが思っているほど、怖くなかった。
耳に入る雲雀のうわさ話は、物騒なものが多かったが、別に自分に関わるわけでもないし、
それよりも彼の意外性が彼女の好奇心を刺激していた。

ツナに会いに行ける日は、並盛中学校に会いに行った。
会えないときは、時間つぶしで、何度か応接室に足を運んだことがあった。
そこでは、彼はいつも窓際の雲雀専用の机に座って、書類をじっと睨んでいたっけ。
ドアを開けると、「また、来たの？」
そんな調子で、空気みたいに放っておかれて、日が暮れた。

ツナたちと一緒にいると、決まって黒い学ランをはおった彼を見た。
だから、また会えたね、と思った。
空気のように自分を扱う彼だったけど、それでも自分は雲雀の中で、興味をもって
もらえる存在だということに、なんとなく気がついて、嬉しくなったのは、
気の錯覚だと思うことにしていた。

ハルは、ツナさんのことが大好きで、ツナさんがハルの世界の中心で、話せると
嬉しいし、笑いかけられると、幸せ気分になる。
だから、ヒバリさんは、たまに見かける人。
ただ、それだけの人。
ときどき、応接室に行って、ときどき、話して、ときどき、笑顔が見れて、それだけの人。
それでも、雲雀と自分の中では、なんらかの繋がりがあるのだと、勘違いしてしまったのは、
何故だろう。
会えなくなってしまえば、自分はどこに雲雀がいるのかも、雲雀に会う方法さえ
ひとつも分からないというのに。

これから、どこに行けば、雲雀に会えるんだろう。
高校卒業とともに、こつぜんと消えてしまった彼に、ハルは困惑した。
ツナのボンゴレファミリーの一員になったとは、聞いていたけれど。
どこへ行ってしまったのだろう。

日が経つにつれて、日々の暮らしの中で、きっと彼のことを忘れていくのかと思ったのに、
いっそう鮮やかに雲雀のことが思い出された。
雲雀の夢を見て、ホワンと幸せ気分になった自分を信じられなかった。
夢で会えて幸せなんて。
ツナと会っても、ドキドキしない自分に気がついたのは、いつからだろうか。
ツナと京子が二人で歩いていても、そんなに落ち込まなかったのは、何故？
何かあれば、応接室に飛び込んでいって、相変わらずな彼を笑うことが出来たのは
どうしてだろう。

認めたくなかった。
だから、気持ちに蓋をしていたのかもしれない。
それが、たとえ、近い将来、後悔という名の鎖にしばられたとしても。

どうして、いつの間にこんなに・・・。
日が経てば経つほど、いっそう、落ち着かない。
鮮やかに思い出せる、あの漆黒の切れ長の美しい瞳を。
真っ黒なまぁるい頭を。細くて長い指を。スラリとした、しなやかな身体を。
心をわしづかみにされる、彼が自分に笑いかける、その素顔を。

後悔という鎖は、ハルが予見していたとおり、彼女をひどく襲った。
会いたい。
会って、あの漆黒の瞳で見つめて。「また、来たの？」とか言って欲しい。
どうして、手を伸ばさなかったんだろう。
あのときなら、まだ、間に合っていたかもしれなかったのに。
意地を張ってしまった。
自分は、素直な人間だと思っていたのに。肝心なところで、それは回らず
後々、失敗する。大きな失敗だ。
会いたい。
会いたい。
どうしても、どうしても、会いたい。

ハルは、一生懸命どうしたら会えるのかを考えて、その結果、ツナに頼むしかない、
という結論にいたった。
ヒバリさんのボスは、ツナさん。彼の呼びかけなら、雲雀も現れるかもしれない。
なんだか、気がどんよりした。
よりによってツナさんに、こんなことを頼むなんて・・・。
でも、ほかの方法なんて思いつかない。

「ツナさん・・・」
「どうした？何かあったの？ハル」
思い切って呼び出したツナは、自分を心配そうに見つめている。
こんなに優しい人なのに、どうしてハルは、あの人のことのほうが気になるのだろう。
自分でも自分がよく分からない。

「ヒバリさんに・・・」
「ヒバリさんがどうかした？」
唐突に雲雀の名前を出されて、ツナは首をかしげた。
「ヒバリさんに、会いたいんです。どうしても。会う方法はないでしょうか・・・？」
「ヒバリさんに、会いたい？」
ツナは、不思議そうにハルの言葉を反復した。ハルがヒバリに何の用があるっていうのだろう。
「ハル・・・」
次の言葉をなげかけようとして、ツナは口を閉じた。ハルが泣き出しそうだったからだ。
「・・・わかったよ。出来る限り、やってみる」
それ以上は何も聞かず、ツナは答えた。

「ヒバリさん！」
やっとのことで、雲雀を見つけたツナは、声をかけた。
わざわざ、ボンゴレで召集をかけて良かった。
この男は、いつだって、どこにいるか分からない。

「話があるのだけど・・・」
「何？」
「ハルって覚えてる？その子がヒバリさんに会いたいっていうんだけど」
「誰、それ？」
あれ？ヒバリさんは、ハルのことを覚えているのだと、てっきり思っていたのに。
ツナはいぶかしがった。
ただ、彼は知っているものを知らないという、妙な癖があるから、本心はどうなのかなんて
ツナには、いつだって分からない。
だが、雲雀にハルの伝言を伝えなければいけない。あの子があんなに沈むなんて
きっと何か重要なことを雲雀に伝えたいのだろう。

「ハルに会ってくれないかな？セッティングするからさ」
「どうして、僕がその子と会わないといけないの？」
「会いたいって言ってるのだから、会ってやってよ」
「嫌だね」
「ヒバリさん！」
「・・・僕に会いたいなら、あっちから出向いてくれば」
「ヒバリさんは、いつもどこにいるか分からないから、ハルは会いに来れないんじゃないか！！」
語尾を強めて、反論したツナを雲雀はジロリと睨んだ後、胸ポケットからメモ帳を取り出すと、
サラサラと何か文字を書き、ツナに渡した。
「これは？」
「僕の携帯。気が向けば、電話にでるよ」

「はひぃ・・・」
ツナから雲雀の携帯番号を受け取ったハルは、彼女の部屋で、携帯電話を片手に
メモの前でうなっていた。
いざ、雲雀に連絡がつくとなると、なぜだか、しりごみをしてしまっていた。
電話をしたい。
声が聞きたい。
でも、なんだか怖い気がした。

何時間かうなっていた後。
ハルは、ようやく覚悟を決めた。
こうやって堂々巡りをしていても、なにも始まらない。
ハルは、えいやっと携帯電話のボタンを押す。
ゆっくりと、間違えないように。
ツ・ツ・ツ・ツ・ツ・・・。
ルルルルルルルルル。
ルルルルルルルルル。
響く呼出音が耳をつく。ドキドキした。
ルルルルルルルルル。
ルルルルルルルルル。
ルルルルルルルルル。
ガチャ。
「あ、あの！」
『・・・ただいま、留守にしております・・・』
「はひー！！！」
留守番電話になっているらしく、ハルは一気に脱力した。
「なんですかー、もー」
はーっと大きく息を吐いて、一度、携帯電話を切ろうとしたとき。
「・・・もしもし？」
声がした。

思いもかけず聞くことになった彼の声は、ちょっと低くなった気がした。
「は、はひ！は、ひ、は、あ、あのっ、そのっ、あのっ」
緊張して、上手く次の言葉が出てくれない。
「・・・・・。・・・・。・・・三浦？」
「は、はい！ハルです！三浦ハルです！」
雲雀が、自分のことを覚えていてくれた。
ハルは、心が舞い上がった。

「あ、あのヒバリさん」
「なに？」
「あの、元気にしてますか？」
「まぁまぁ・・・」
そのぶっきらぼうな返事の仕方に、変わってないなぁと妙に嬉しくなった。
「ヒバリさん」
「何？」
「ヒバリさん」
「だから、何？」
名前を呼べば、答えてくれる。
「・・・あの、ヒバリさん・・・会いたいです。会えますか？」
ハルは、恐る恐るたずねた。
嫌だ、と言われればそれまでで、なぜかハルは二度とこの電話番号に電話をかける
勇気が持てない気がした。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・今・・・・」
ハルは、次の言葉を待った。
「今、ここにいる」
「はひ？」
「君の家の前」
「え？」
ハルは、急いで窓の下をのぞいてみた。
黒いスーツを着た、スラリとした長身の男性が、携帯電話を片手に持って、ハルを見上げていた。

ハルは、急いでドタバタと階段を駆け下りて、玄関から飛び出た。
「ヒバリさん！」
彼の姿を認めて、急いで声をかける。久しぶりに見た彼に、ハルの心臓は飛び跳ねた。
本物。本物のヒバリさんだ。夢じゃなくて。
「久しぶり」
「・・・久しぶり・・・です」
相変わらず、ドタバタしているハルに雲雀は、くすりと笑った。
「あ、あの、ヒバリさん、どうしてここに・・・？」
呼吸をととのえてから、ハルは一番、疑問に思っていることを聞いた。
「君が会いたがっている、と沢田綱吉から聞いたから」
「あ・・・」
ハルは、真っ赤になった。
「そ、それで、わざわざ会いに来てくれたんですか・・・」
感激した。正直、嬉しかった。
あの雲雀が、自分から会いに来てくれるなんて。
こんなこと有ってもいいのかな。

「それで、何の用なの？」
「え？」
「用があったんじゃないの？」
用。
え？
用。
一気に現実世界に引き戻されて、ハルは困惑した。
そうだった。
確かに、この人は、無駄なことをする人では、なかったですね。
もしかしたら、ヒバリさんもハルに会いたかった、のでは？という甘い考えは、
確かに甘い考えでした。

用。
あったっけ・・・。
ハルは、ただ雲雀に会いたかっただけで、具体的な用がないことに気がついた。
次の言葉を探す。
えーと。何ていおう。

「え・・・と、用と言えば、ええと、ですね・・・」
「何といいますか、えーっと・・・」
用。
具体的な用。
えっと。えっと。えっと。何か、用を・・・。
雲雀は、そんなハルをじっと見ている。
その切れ長な漆黒の瞳が、揺らいでいる。
あ、イラついてきてそう！
ハルは、焦った。
昔から見てきた、何度も何度もお目にかかった、あの瞳の揺らめき。
雲雀のイラつきが分かる。
イライラしてる。
苛苛。
あ、もう、そろそろ言われ・・・そう。
「用がないなら、帰るよ」
やっぱり、言われちゃった！
「そ、そんな・・・せっかく、会えましたのに」
「だって、君、用、ないんでしょ」
「それは・・・」
「・・・じゃあね」
彼は、ハルのすがるような目を一瞥すると、クルリと方向転換して、スタスタと歩き出した。

「・・・あ！」
その背中を見ながら、ハルは、直感した。
ここで、彼を見失ってしまったら、もう二度と、会えない！
もともと、住む世界が違いすぎる。
彼と彼女の線は、交差しない。このまま、お互い一直線。交わらない。
今、彼を捕まえないと、もう一生、会うことはないだろう。
そんなの、絶対に、嫌！
彼女は、無意識に足を走らせた。手を伸ばす。せいいっぱい。
その指が雲雀の黒いスーツに届くか、届かないとき。
雲雀が急に振り返ったから、ハルは勢いあまって、彼の身体に飛び込む羽目になった。

「ぶふっ！」
雲雀の胸にハルの顔がまともに体当たりして、変な声がでた。
しばし、何も言えない。
「ねぇ・・・」
頭上から、雲雀の声がした。
はっと、気がついて、ハルは彼から顔をはがした。
「ヒバリさん！急に振り向くなんて、反則です！」
ハルはぶつかった顔を抑えながら、ひとしきり文句を言ったが、
雲雀は、そんなハルをお構いなしに、ジーっと見つめたまま、黙っている。
沈黙があたりを支配する。
「え、と・・・」
ハルは、少し俯いた。
・・・言葉がでない。
肝心なときに。どうして。

雲雀は、しばらく黙っていたが、「それじゃあ」ときびすを返した。
「あ・・・」
ハルは、泣き出しそうになった。
どうして、大切なことを伝えようとするとき、上手く伝えられないの。
誰か、この体を切りつけて。
そこから、流れ落ちる血を彼に浴びせて、彼を止まらせて。

２、３歩、歩いてぴたり、と彼は立ち止まり、もう一度、振り返った。
美しい、彼の漆黒の瞳が、ハルを見つめる。

「・・・ハル・・・最期のチャンスだよ。」

彼は、言葉を続けた。

「君は、僕に言いたいことが、あるんじゃないの」

最期のチャンス。
それは、ハルの心に、ドスンと重く伸し掛かった。
言わなくちゃ。気持ちを伝えなくちゃ。
もう、あの地獄のような後悔はしたくない。
言わなくちゃ。
ここで言わなくては、なにも、始まらないし、そして終わることも出来ない。
さぁ、言って、ハル。言って。
言わなくちゃ！
「ハ・・・ハルは・・・」
やっと声が出た。
言葉、言葉を・・・。
「ハルは・・・」
さぁ、想いを。
「ハルは・・・あなたのことが・・・」
伝えて。
「あなたのことが・・・ヒバリさんのことが、好きです」
最後は、消え入りそうな声だった。
顔に熱が帯びて、心臓がドクドクいって、クラクラして、倒れそうだ。
相手に自分の想いを伝えることが、こんなに怖いなんて初めて知った。
相手の反応が、怖い。

「三浦」
「はひっ！」
ハルは姿勢を正した。
「僕は、群れるのは嫌いだ」
「はひ」
「それは、今も昔も変わらない」
「・・・はひ」
それは・・・知っています。よく、知っている。
彼は、群れるのが嫌い。
何回も彼から、発せられた台詞だ。
その言葉が指す意味を。
柔らかに、告白を拒否されたことを感じて、ハルは一気に暗くなった。
直接的な拒否、ではない回りくどい言い方が、彼なりの優しさなのかな、なんて、
自分を慰めてみたりした。

仕方ない。
自分はよく、頑張った。
ヒバリさんは、自分が会いたいって言ったから、ここまで来てくれた。
それで、充分じゃないか。
そして、自分はヒバリさんに想いを伝えて、そして結局、振られた。
仕方がないじゃないか。
でも、これで終われる。
あの暗い日々も。一応は終止符をつけられる。

ハルは、自分でも分からなかったかもしれないが、笑顔を作っていた。
彼が、気を遣わないようにと。
雲雀は、そんな彼女の表情に気づいたのか、ふと、首をかしげた。
「・・・なんて顔してるの？」
「はひ？」
「すっごい、顔している。嬉しくないの？」
「はひ？嬉しい・・・？」

嬉しいって、何？
ハルは、血が逆流したのを感じた。
一気に悲しさから、腹立たしい気持ちになった。

なんなんですか、この男は・・・！
デリカシーゼロですかっ！

ハルは、ツカツカとやってきて、雲雀の目の前に立った。
まっすぐ、雲雀を睨みつけて、息を大きく吸って、一気にまくしたてた。

「っ！このっ！バカ男！！！
どこの世界に、好きな人に振られた直後に嬉しい気持ちになる人がいるっていうんですか・・・！
どれだけ、デリカシーゼロ、ですか！
バカっ！ヒバリさんのばかっ！非人間！
ばかっ！ばかっ！ばかっ！ばかっ！大ばかものっです！！！」
やり場のない手をギュっと結んで、血がでるかと思うくらい、強く強く結んで。
雲雀の姿がぼやけた。瞳に、涙がにじむ。
それでも、彼を睨みつけた。

雲雀は、一瞬、けげんそうな顔をしたが、すぐに合点したように表情を戻した。
ふーふー言っている彼女は、興奮した猫のようだ、と思った。
あ、泣き出しそう。
と思ったら、彼女の目からポロっと涙がこぼれて。
ハルは、それを荒い仕草でふき取ると、案の定、走り出そうとしたから、
彼はそれより早く、彼女の行動を制止した。

「は！離してくださいっ！」
「誰が、バカ男だって？」
「ヒバリさんです！ほかに誰がいるっていうんですか！」
「僕はバカじゃない、バカは君だ」
「はひー！バカって言うほうが、バカです！」
「君は、何か勘違いしている」
「何がですか？ヒバリさんがバカっていうのが勘違いですか！そんなのしてません！」
ヒバリは、顔をしかめる。
「・・・君は、やっぱりバカだな・・・」
吐き出すように言うと、ぴたりとハルは動きを止めた。
「・・・ハル？」
「・・・どうせ、どうせ、ハルはバカですよ。ツナさん、ツナさん言っていたのに。
ツナさんがハルの世界の中心だと思っていたのに。
いつの間にか、ヒバリさんのことしか考えなくなって。ヒバリさんのことばかり目で追って。
ヒバリさんのことばかり、思い出して。
今さらっ。
・・・今さら、ヒバリさんのことを好きだと気がついて。
好きだと気がついたら、ぜんぜん会えなくなって。やっと会えたと思ったら、振られて。
今度は、振られた相手に文句をふっかけて、罵倒して。
こんな滑稽な女、どこにいますか？
どうせ、バカですよ。どうせ・・・」
一気にまくしたてると、涙がポロポロ出てきた。
ひどい醜態だ。
最期の最期で、なんて様。

長い沈黙のあと、雲雀は、ため息をついた。
そのため息に、ハルはびくっとする。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・ハル・・・・」
「・・・はい」
「僕は、君を振ってないのだけど」
「・・・・・」
「・・・はひ？」
彼女は、顔をあげた。
「・・・今、なんて？」
「だから、君、勘違いしてるって・・・」
「え？はひ・・・だって、『僕は、群れるのは嫌いだ』だって・・・」
「そうだよ。それは、今も昔も変わらない」
「そう、そう言いました。だったら、」
「ただ、そう言っただけだよ。続きがあったんだけど、君はいつも最後まで、人の話を聞かない。」
「え・・・。だって・・・え？」
どういう、こと、でしょうか。
彼は、何を言いたいのでしょうか。

雲雀は、涙でぐしゃぐしゃになった彼女のハテナ顔を見ながら、ぷっと吹き出した後、
「ひどい顔」と微笑んで、彼女の腕を引き寄せて、胸の中に収めた。
「はひ・・・」
温かかった。
「・・・分からないかな。」
雲雀は、力をこめて、たずねた。
「分からない？ハル。
どうして、沢田綱吉に僕の携帯番号を教えたのか。
どうして、僕が君の家まで、わざわざ会いに来たかってこと。
ねぇ、分からない？」
ハルは、「えっと、えっと、えっと・・・」
混乱した頭で、考える。
感情に支配されていた頭は、上手く回らない。
「えっと、それって、つまり・・・」
何なんですか？
「・・・つまりは、君の事、好きだってことだよ」

「はひー！嘘です！」
ハルは、雲雀から体を離して、叫んだ。
雲雀は、眉間にしわを寄せる。
「そんな、ヒバリさんが、ハルを好きって・・・そんな都合のいいこと・・・」
「あるわけ・・・」
ハルは、そう思うと悲しさで、涙が出てきた。
「・・・ないです・・・」
再び、泣き出したハルに、「相変わらず、ワケわかんない」と思いながら、雲雀は首をかしげる。
「嘘だと、思うのなら、それでもいいけどさ、三浦」
雲雀は、彼女のあごに手をのせた。
「せっかく、『両想い』っていうのに、なれたんだから、キスぐらいさせてよ」
そう言うと、彼女の唇に自分の唇を、そっと重ねた。

END

雲雀が、帰って部屋の中。
あれから、いっぱい抱きしめられて、長いキスをされて、「おやすみ」と瞳にキスをしてくれた
彼を見送った。
そのまま、ポワーと眠りについた、次の日の朝。
昨日のことを、思い出して、真っ赤になったあと、彼女はふと、思った。
・・・ヒバリさん、回りくどいです・・・。
ハルは、ちょっと顔をしかめたが、すぐに、ふにゃぁと緩めた。
でも、幸せです。
彼女は、ピンクの枕を抱きしめながら、「えへへ」と微笑んだ。
きっと今、この体を切りつければ、零れ落ちるのは、あの人への恋だけ。