ふぅっと眠りから目が覚めて、彼女は窓の外を見る。
外は、しとしと雨が降っていた。
早朝、５時ごろ、まだ夜明け前の薄蒼い空気がきれい。
しとしとしと。
しとしとしと。
きれいな世界。
何ものにも汚されない、貴方のようで、きれいだね。
「ヒバリさん、雨、きれいです」
そっと、隣で寝ている少年につぶやく。
起こさないように、気をつけて。小さな声で。
「きれい」
静かな夜明け前の空気は、雨の音がちょうど良い。
雨音がやさしく響いて、
世界であなたとわたし、二人きりみたい。
真っ黒な髪をした、綺麗な貴方。
切れ長な漆黒の瞳は閉じられていて、ゆるやかにカーブする長い睫毛が際立っている。
綺麗な、ひと。
ハルの大好きな、大好きな、ひと。
「ヒバリさん、ハルは幸せです」
ぽつりとつぶやく。
「・・・ん・・・」
雲雀の腕が、ハルの腕を引き寄せる。
すっぽりと包まれた彼の腕の中。
外は、しとしと。
中は、ぬくぬく。
ハルは嬉しくて、内から喜びでる嬉しさを抑え切れなくて。
クフーと微笑みながら、「ヒバリさん、大好きです」
彼の腕の中、また、ふわりと眠りについた。
ずっと、ずっと、ずっと、この幸せが続きますように。
祈らずにはいられない。
ハルの祈り。
気持ちよく寝てたのに、抱きしめて寝てたのに、この小さな小動物は、いつの間にか、
僕の腕の中から抜け出して、外を見ている。
外は、どうやら、雨らしい。
飽きないで、ずっと窓の外を見ている。
「ヒバリさん、雨、きれいです」
「きれい」
雨なんて、どうでもいいよ。
そんなことより、君が窓のほうへ乗り出しているから、ぽっかりと空いた布団の穴が、
寒いのだけど。
いつまでも、布団の穴がふさがらないから、この安眠を守ろうと、布団を引っ張りあげようと
したのだけど。
「ヒバリさん、ハルは幸せです」
彼女が、ふわり、と微笑んだから。
その微笑みが、本当にきれいで、やさしくて、すべてを包み込むように。
本当に幸せそうだったから。
彼は彼女の腕を引き寄せて、ふたたび布団の中に、すっぽりと収めた。
ずしりと心地よい重みが、彼の腕に伝わる。
彼女の吐息が、彼女の熱が、彼の体をじんわりと暖める。
外は、しとしと。
中は、ぬくぬく。
彼女が、また笑って、ようやく、眠りについてくれた。
こんな雨が降る朝も、たまには悪くないね。
小さな、暖かい君。
君の存在が、とっても身近に感じるから。
いつまでも、君と一緒にいてあげる。
いつまでも、支配してあげる。
生涯、ずっとだよ。
言葉には、決して伝えることはないけれど。
それは、スルリと彼の内に入ってきた、彼女へのささやかな抵抗。
END