委員長は、ご自分の性格をきちんと把握されていない、と彼はよく思う。
誰もが誰も、自分の性格をきちんと把握している人なんて、いないから、仕方がないことかも
しれないけれど。
自分が委員長に対して、このようなことを言うのも、かなり申し訳ない気分だが。
それでも、あえて、言わせてもらうと。
委員長は、ご存知ではない、と思う。
彼が、彼女のようなタイプに実は弱い、のだということを。
彼女・・・三浦ハルが、委員長に近づくと、委員長は、いつもイライラしておられる。
応接室で、いつものように、委員長を振り回して、彼女が帰ったあとは、委員長は、「はー・・・」と、
それはそれは、本当に疲れたように、長い長いため息をつかれる。
でも、そっと窓際から、帰宅する三浦ハルの後姿を見続けている、その動作の意味を、
委員長は本当に分かっていらっしゃるのだろうか。
否。無自覚。
彼女・・・三浦ハルが、委員長にコーヒーを入れる。
それを一口飲んで、「甘い」とひとこと文句をつけて、
「ほら、三浦、また砂糖を入れたでしょ。僕はブラックしか飲まないんだから」
「入れなおし」「はひー、だってハル、いつもお父さんのには砂糖いれますから、ついクセで」
「これ、飲んで良いから、入れなおし」
と、ご自分が口をつけられたコーヒーカップを三浦ハルに渡す、その行為の意味を、
委員長は本当に分かっていらっしゃるのだろうか。
否。無自覚。
彼女・・・三浦ハルが、委員長の由緒ある学ランに触れる。
それを、勝手に着こんで、「はひ、ブカブカです」とか言って、騒いでいる。
そんな神でも許されない行為を、「よごさないでよね」と一言だけで片付けて、
何事もなかったかのように、また書類に目を通していらっしゃる、その許容の意味を、
委員長は本当に分かっていらっしゃるのだろうか。
否。無自覚。
彼女・・・三浦ハルが、「ツナさんが」「ツナさんが」と連発して帰った後、紫色のオーラをかもし出して、
不機嫌きわまりない顔をして(他の風紀委員のメンバーは、三浦ハルが「ツナさんが」と言ったのを
耳にした時点で、半分、逃げ帰っている)「群れる草食動物って腹がたつよね」と世にも恐ろしい声で、
にこやかにおっしゃる。
その苛立ちの意味を、委員長は本当に分かっていらっしゃるのだろうか。
否。無自覚。
無自覚。
すべてにおいて、無自覚。
委員長は、無自覚だ。
彼女・・・三浦ハルが、風紀委員室ではしゃぎすぎて、黒いソファで眠りこけているとき。
委員長が、ゆっくりと近づいていって、その唇に、その唇に・・・・・・。
がー！！！！！！！！！！！！！！(以下、自主規制)
ここまでくると、無自覚でもない気がするが・・・。
いや、いや、委員長は、無自覚だ。無自覚。
どうして、三浦ハル、なんだ、と彼は頭を覆う。リーゼントもやさしく一緒に。
思い起こせば。
黒い髪は光にすけて、サラサラして、ちゃんとお手入れもされている。
すれ違うと、ポニーテールからオレンジの香りがした。
ちょっとつり上がった、クリッとした瞳のかたちも、チャーミング。
声だって透き通って、鈴がなるような可愛い声だ。
唇には、薄ピンク色のリップクリームがぬられていて、艶々として美味しそう。
(・・・あれ、自分、ちょっと変な方向、いってるな。いかん、いかん)
確かに、顔は可愛いさ。
新体操をしているだけあって、スタイルも良い。いっつも元気で、爽快だ。
うなじ、だって、綺麗。着物をきたら、似合うかもしれない。
(委員長は、和服好きだからお似合いかも・・・あれ？そんなことは、どうでもいい)
・・・だが、あの性格は・・・天然すぎる。突拍子もない。飛んでいる。
誰もが恐れる、不良の頂点にたつ、最強・絶対の風紀委員長に対して、何も気づく様子もなく
フワフワと近づいて、その天然で、委員長の心を乱していく。
天然も強力になれば、威力はすごい。
最強・絶対 ＜ 秀でた天然
そんな図式が思い浮かぶ。
でも、雲雀恭弥だからこそ、ありえる図式なのかもしれない。
だからこそ、余計にやっかいなのだ。
草壁は、頭をあげた。
リーゼントの形を軽く整えた。
今日も応接室から「はひー」という奇妙な声が聞こえる。
「はぁ・・・」
草壁は、ため息をついた。
最初は、ただの不思議系のいち女子だと、思っていた。
それなのに！
いつの間にか、解けない魔方陣を仕掛けられた。
呪いの黒魔法は、発動されて。
じわじわと侵されていく呪いの空間で。
呪いに侵食されていくのは、誰？
気づいたときには、もう、遅い。
委員長にかかったのは、呪いで、三浦ハルは黒魔法使い？
いや、いや、いや、いや・・・しかし。
委員長を守るために、イモリやらカエルやら、マンドラゴラやら、トリカブトやら、タランチュラとか、
毒蛇とか、そういう類のものを集めてきたほうが良いのだろうか。
(・・・・・・。ちょっと、自分も思考おかしくなっていますね。元に戻そう・・・)
すみません、委員長。自分には、黒魔法使いの出入りを防ぐ方法も、黒魔法に対抗することも、
呪いの侵食を止める方法も、何も、思いつきません。
敬愛する委員長を守れなかった、自分をお許しください。
でも・・・。
出会ってしまったのだから、愛でてしまったのだから、仕方がない。
だったら。出来ることは、ただ、ひとつ。
自分は、精一杯、見守ろう。
そう、決意した、今日この頃でした。
「草壁、誰か殺すの？」
「は？・・・いえ、その予定はないですが・・・」
「トリカブトとか、タランチュラ、毒蛇とか、ブツブツ言っていたから・・・。
そんな回りくどいことしなくても、僕が手を貸すよ。」
「は・・・ありがとうございます・・・でも、大丈夫ですから。」
「・・・そう」
委員長、相手は三浦ハルです。
貴方には、無理です。
そして、たぶん、私にも。